Cubase講師の月岡先生

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Cubase講師の月岡先生

「Cubase 14」がリリースされた。

 

今回も予告なしのサプライズ発表だったので、急ごしらえで動画を制作することになった。DTM製品はなぜかサプライズが多い。前作の「Cubase 13」も同じように作ったし、iZotopeの「Ozone 11」なんかもそうだった。たまたま空いている日だから良かったものの、出張中だったりしたらモヤモヤして仕事が手につかなかったはずだ。

 

いまだに「Cubase講師」として見られることが多い。Cubaseレッスンもうほぼやってないのに。とはいえ、私のYouTubeチャンネルに5年前の「Cubase超初心者講座」から入った方も多いだろうし、随分長いことCubase講師としてのブランディングをしてきたのだから、当然っちゃ当然の結果だ。

実際のところ、もう私は自分をCubase講師とは名乗っていない。動画でジャケットを着るのもやめたし、オトナリダンギではなるべく素の自分を出すように心がけている。先日とある媒体で紹介していただいたときも、紹介文の肩書きに講師とは入れないようお願いした。

それでもやはり、私がこんなことを言うのは烏滸がましいのだが、『世に出た時の印象』というのはそう簡単に覆るものではないようで、私はいつまで経ってもCubase講師として見られがちだ。ゼロカラコンピのアドバイス希望欄にも、「月岡先生の忌憚なきご意見をいただきたく」などと書かれていることがとても多く、「俺もう先生なんて器じゃないっすよ〜」といたたまれない気持ちになる。

 

 

先日ラジオを聴いていたら、お笑い芸人の永野さんがゲストとして出演されていた。永野さんといえば私が学生の頃にブレイクし、オブラートに包まず言えば一発屋として消えていった印象だったが、いま再ブレイクして活躍されているらしい。芸能ニュースに疎くて知らなかったのだが、今の永野さんは「芯を喰ったことをズバッという人」というご意見版的ポジションなのだとか。

それを知った時はかなり驚いた。だって永野さんの芸風って、どちらかといえば破天荒で、めちゃくちゃで、馬鹿馬鹿しい一発ギャグの路線だったはずだ。それが今になって、大人が喜ぶピリッとウィットに富んだユーモアでウケているというのは、永野さんという人間そのものポテンシャルが高いのはもちろんのこと、きっと「魅せ方」を変えるために相当努力されたはずなのだ。「ラッセンが好き〜〜〜!」から「俺はそれは違うと思うな。なぜなら〜〜〜」の間にどれだけのドラマがあったのか、それを想像するだけで永野さんのことが好きになってしまう。

私は永野さんの「今」にすごく勇気をもらった。世に出たときと違うフォームで売れている人間はかっこいい。もちろん一本槍を貫く人間も美しいけれど、私はどちらかというと永野さん側の、歳と共にフォームを変えていく人間でありたいと思う。

 

5年前、私は初めて「Cubase講師」として世の中に出た。5年間で私のことを知る人はありがたいことに0人から4万人まで増えたが、その間に私はCubase講師をやめてしまった。4万人のほとんどが「Cubase講師の月岡先生」を求めていると知りながら、私はミュージシャン路線に舵を切った。いや、正確には、私は最初からミュージシャンの野望を抱えていたのだが、世の中に出るために一番強い手札である「Cubase講師」を切ったにすぎない。そうでなければ、誰からも求められていない新曲をCubaseで10年以上も作り続けることなどできなかった。Cubase講師は月岡彦穂を世の中に見つけてもらうための、私なりのアプローチだった。

永野さんも同じようなことを言っていた。彼もなんとか世の中に見つけてもらいたくて悪戦苦闘し、得意な一発ギャグを披露したらそれが見つかって、求められるがままにギャグを続けていたらそれしか需要がなくなって、でも本当にやりたいことは今の毒舌スタイルで、その差を埋めるためにいろいろな仕事を受けてきたという。彼はそれで見事再度ブレイクを果たした。

 

もしかしたら、最初から「本当にやりたいこと」で世に出ている人間の方がレアかもしれない。だって、好きなことと得意なことなんてそう簡単に一致しないのだから。得意なことが好きになることはあっても、好きなことが得意になるとは限らない。

ほとんどの表に出る人間は「得意」をきっかけに仕事をしている。でも、顔が可愛いからとアイドルになった女の子は、本当はアパレルをやりたかったかもしれない。何もない状態でアパレルを始めても成功する確率が低いと踏んで、まずは自分の存在を知ってもらうために強い手札である「顔の可愛さ」を切ったのかもしれない。そのムーブを嫌う人も一定数いるが、私はそれをとても勇敢な決断だと思う。

 

そもそも、世に出たときのフォームを一生崩しちゃいけないなんて、そんな人生の何がおもしろいのか。一度勝ちパターンがわかったゲームは飽きて当然だ。人生は「勝つか負けるかわからないこと」にチャレンジしている時が一番ワクワクするのだから、貴重な時間を使うなら絶対に、得意なことより好きなことだ。

とはいいつつ、いそいそと新作Cubaseの動画をアップしているあたりがこの話のややこしいところであり、私の弱さでもある。0か100かで割り切れる問題ではないのだ。大切なのはバランス感覚。変化がないように見えて気づいた時には詰ませている、名人の将棋のような人生が理想である。

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