動画では言いづらい、WAVESのサブスク化について思うこと

こんにちは!ゼロカラカンパニーの月岡です。
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さて、今回のテーマは『動画では言いづらい、WAVESのサブスク化について思うこと』です。

 

動画の反響

※3/30追記:WAVESは完全サブスク化を撤回し、従来の買い切りモデルの復活を宣言しました。とはいえこのブログの内容に影響はないので最後までお楽しみください!

 

先日公開した動画のコメント欄が、アンチWAVESで溢れている。

 

WAVES、こんなにヘイトを買っているとは。

もちろん、叩かれるだろうな〜とは思っていたし、実際に私も「う〜ん」とは思ったから予想通りではあるんだけど、それにしてもみんな怒ってるな〜という印象だ。

 

凄い権力持ってる人がガン萎えしてた。日本変わるかも。

 

 

今日は、動画で話せなかったことに触れようと思う。あれ以上しゃべると情報過多だったので、泣く泣く省いたいくつかのトピックスがあったのだ。

ただ、そのトピックスだけを動画でキャッチーにまとめられる自信がないので、このブログで書いてみようと思う。ここはそういう自由な場所。

 

WAVESはAdobeになろうとしている

うっすらみんな気づいていると思うけど、WAVESはAdobeになろうとしている。

 

Adobeもかつては買い切りだった。今ではサブスクが主流である。きっと反発もあっただろう。

それでもAdobeが、WAVESが今向き合っている荒波(WAVESだけに)を乗りこなせたのは「そうは言ってもAdobe」という、業界の空気があったからだと思う。

 

Adobeの代わりになれるソフトは、正直言ってたくさんある。例えば私がバリバリに使っているCanvaというデザインアプリは、ほぼPhotoShopと同じ言って差し支えない。それどころか、PhotoShopより便利なところもたくさんある。Premier Proの代わりとしてはDaVinci Resolveがある。「Adobeじゃなきゃいけない」なんてことは、個人レベルではあまりない。

しかし、Adobeは今でもクリエイターツールのデファクトスタンダードとして君臨しており、泣く泣くAdobeにサブスク料金を払っている人間はとても多い。かくいう私も、CanvaとPhotoShopの両方にお金を払い続けている。

 

それはなぜか?

ずばり「Adobeの代わりが多すぎる」ことが原因だ。

 

もっと噛み砕いて説明すると、まず前提として、同じ業界のクリエイターは同じソフトを使った方が良い。データの共有も簡単だし、困ったときは助け合うことができるので。

デザイン業界ではそれがAdobeだが、例えばAdobeの代替ソフトが世界中に「1個だけ」存在し、そのクオリティやコスパがAdobeを超えていた場合、全クリエイターが「せーの」でそっちに飛び移ればAdobeは駆逐できる。

しかし、代替ソフトが何十種類もある現実ではそうはいかない。数多のソフトからナンバーワンを選定し、コンセンサスを取った上でみんなが一斉に乗り換えるには、ちょっとコストがかかりすぎる。だったらAdobeのままでいい、と誰もが思う。

 

つまり、Adobeが生き残っているのは代替ソフトがいるおかげだ。皮肉な話である。

多くのメーカーがAdobeの耕した畑に果実をもぎに行った結果、一社あたりの取り分は少ないわ、なぜかAdobeが儲かるわ…。よく聞く「パイオニアが強い」とはこういうことだ。

 

 

しかし、WAVESはどうだろうか?

WAVESはAdobeほどデファクトスタンダードになっている感じはしない。

プロのエンジニアの多くがWAVESを使っているが、WAVES以外もたくさん使っている。私は「明日からWAVES使わないで」と言われてもあまり困らない。WAVESがダメならダメで別のメーカーを探すか、と思えるし、共同制作者がWAVESを使っていた場合、最悪、パラデータをウェットで貰えば問題ない。

 

また、WAVESの代替メーカーはAdobeと違って数が限られている。iZotopeとUADくらいしか、あの席には座れないのではないか?

…どちらかが本気を出せば、制圧は意外とあっさり終わってしまうかもしれない。

 

iZotopeは昨年Native Instrumentsと組んで「Soundwide」というブランドを設立した。ソフト音源(KONTAKT)とエフェクター(Ozone)の代表選手を有する両社が組んだことに、私は意味を見出さずにはいられない。現状、WAVESにAdobeと同じことはできないと思う。

 

プラグインとサブスク

動画のコメント欄では「サブスクであること」ばかりが叩かれていたが、前から何度か言っているように、私はサブスク制度自体への嫌悪感はない。

私が「う〜ん」と思ったのは「サブスクであること」ではなく、「サブスクでしか使えなくなること」だ。選択肢を減らされたことへの疑心であって、サブスクの導入自体には私は賛成である。

 

なぜかというと、その方が結果としてユーザーが得をするからだ。

 

プラグインには、OSの進化などについていくための「定期メンテナンス」があり、これは自社の抱えるプラグインの数が多ければ多いほどコストがかかる。このコストはもちろん売上から補填するが、WAVESほどの老舗になると、既存ユーザーのメンテナンス費を新規ユーザーの購買費で補填しきるのは難しいはずだ。

しかもこの問題は年々悪化していく。なぜなら既存ユーザーは増える一方なので。メンテナンス費の捻出は、WAVESにとって深刻な社内問題だったのではないかと私は予想している。

 

WAVESはおそらく、恒常的なメンテナンス費用を欲していた。その解決策として、サブスクは実に魅力的だ。

WAVESの見込み客で一番パイが多いのは、すでにWAVES製品を買っている「もうWAVESにお金を払わない層」であることは間違いない。この層へのアプローチとして、サブスクの導入を思いつくのはビジネスの観点から見ればとても自然なことだ。

 

「もうWAVESにお金を払わない層(A)」に対して「これからは月額を払ってもらいますよ。嫌なら出てってくださいね」と言うことで、この層は二層に分離する。すなわち「再びお金を払う層(B)」と「これからもお金を払わない層(C)」だ。WAVES的には、AがBになれば儲かりものだし、AがCになったとしてもあまり問題はない。元々お金を払わなかった人が、明日からもお金を払わないだけなので。

 

ユーザーは胸糞が悪いかもしれないが、私がWAVESの経営陣だったら「What a wonderful idea!!」と叫んでいる。おそろしく合理的で悪魔的な変革。こうしてメンテナンス費を安定して生み出せれば、そこに割いていた労力を他の事業にあてがったり従業員の数を減らしたりすることで、結果としてユーザーが得をする。

 

 

…とはいえ、「サブスク完全移行」程度のアイデアが、WAVES数十年の歴史の中で出てこなかったわけがない、と私は思っている。

サブスクが流行り始めた2010年初頭には、おそらく社内にこのアイデアはあったはずだ。「これめっちゃウチ得じゃないスか!!」と誰かは言ったはず。

しかし、サブスクという言葉がまだ大衆に浸透していなかったり、準備に時間がかかったりでなかなか実行に移せなかったのだろう。おそらく社内では、満を辞して決行した10年がかりの大改革、という位置付けなのではないだろうか?(そりゃそうか。一周回って当たり前のことを言ってしまった。)

 

 

 

 

動画でも話したが、WAVESの目指す未来は「プラグインはサブスクで買い、それを動かすのはAI」という未来だろう。これはほぼ確定で間違いない。WAVESは新時代のデファクトスタンダードを狙っている。

WAVESはもっと先の未来を見据えている気がしてならない。すなわち、今の子供達が大人になったとき、あるいはまだ生まれていない命が大人になったときに、そこにあたりまえにある「サブスク×AI×DTM」の世界を制服するために、駒を1マス進めたように私には見えた。

現役のレジェンドが全員天命を迎えたあと、今は誰でもない誰かが次のレジェンドとして名を馳せる。その未来で天下をとるためのNヵ年計画のファンファーレが鳴ったのが、2023年3月27日だったとは考えられないだろうか?

 

その時代ではプロもアマも全員が「StudioVerse(の何世代も進化したやつ)」を使っており、それがないと仕事にならないからとっとと契約してこいよ、まったく、プロになりたいくせにWAVESサブスクも使ってねえのか……と言う老害が現れる。

サブスクプランはユーザー数が増えることで値段が大幅に下がっており、毎月払い続けても痛くも痒くもない絶妙な塩梅だ。

ネットストアで定番の「DTM入門セット」にはもちろんWAVESサブスクが入っており、小6の子供が「ぼく中学生になったらDTMやりたい」と親にWAVESサブスクをおねだりする。親はそれを抵抗なく子に与える。「みんな使ってるから安心ね。」

 

WAVESの目指す未来はきっとそんな具合だ。今回のニュースに対して私が考えるのはそんなところで、だから「サブスクは嫌だ!もうWAVES使いません!」と意固地に抵抗する気にはとてもなれない。

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