ゼロカラコンピ3周年に寄せて

「月岡さん、ゼロカラコンピをやってくれてありがとうございます。」

参加アーティストが100人を超えた2022年4月。あの日、私は生まれて初めて、この言葉をシャワーのように浴びた。

何者でもなかった「月岡彦穂」が、「ゼロカラコンピの月岡さん」になった瞬間だった。2020年に始めたゼロカラコンピは、約2年かけて大きな定期演奏会に成長した。それからどんどん数は伸び続け、ついに今年、応募曲数が300曲を突破した。

数がすべてじゃないと言う人もいる。たしかに「満足度」のような目に見えないものも大切だが、それが数をおろそかにしていい理由にはならない。私の夢はゼロカラコンピをDTMerの文化にすること。日本に数万人いるDTMerのうち、300人しか参加していないイベントはまだまだ文化とは言えない。

 

私がゼロカラコンピを文化にしたいのには、理由がある。

 

「曲を作ったのに誰からも相手にしてもらえない。」これは作曲経験者がほぼ例外なく味わい、もちろん私も苦しみ続けてきた根深い問題だ。

愛情込めて作った楽曲を聴いてもらえないのは、想像を絶するほどに辛い。その辛さは痛いほどわかるし、結果として音楽を辞めてしまった人や、精神を病んでしまった人もたくさん見てきた。その中には、私から見れば嫉妬するほどの才能を持つ人もいた。次々に音楽から離れていく仲間を見て、彼らが音楽を辞めなければいけない、そんな世界は間違っていると思った。作った音楽は、必ず誰かに聴かれるべきだ。音楽は、人に聞かれて初めて完成するものだ。そのためには、音楽を聴き合う「場所」が必要だ。その信念に基づいて、私は「DTMerの定期演奏会」であるところのゼロカラコンピを3年間続けてきた。

私は数を追う。数を追うから人が増える。人が増えるからゼロカラコンピは盛り上がる。盛り上がるからみんなの音楽活動が続く。このループを続けることが大切だと信じている。私の仕事は数を増やすこと。これをやめてはいけないし、やめるつもりもない。

 

 

3年も続けていると、「ゼロカラコンピは変わった」という声も聞こえてくるようになった。月岡さんが全曲にコメントしてた20〜30人の時代に戻りたい。規模が大きくなってきた今のゼロカラコンピには惹かれない。もっと小さくしてください……。昔から参加してくれている「古参」の方達の気持ちは、正直わからないでもない。小さな頃の思い出は誰にとっても特別なのだ。

しかし、一部の方達には申し訳ないが、ゼロカラコンピはこれからもアップデートし続ける。もちろん、参加アーティスト達が最大限楽しめる方向へ、という前提はあるものの、300人規模になるともはや全員を満足させるのは難しいので「俺には合わないな」という人も当然出てくる。それは、100人を超えたあの日から覚悟していたことだ。

次回はついにスポンサーがついて、受賞アーティストに景品が出ることになった。前夜祭には現地観覧席が用意され、ゼロカラコンピという定期演奏会はどんどん大きくなっていく。この流れを止めるわけにはいかない。ゼロカラコンピをDTMerの文化にするための、私の夢見た世界を作るための推進力に、乗らないという選択は私にはないのだ。

 

 

1年中ずっと、ゼロカラコンピのことばかり考えている。3ヶ月に1回のイベントだが、準備期間を含めるとずっと何かしら動いているからだ。ゼロカラコンピが人生の中心にある。私は幸せ者だと思う。定期演奏会ができるのは、いつもみんなが参加してくれるからだ。私はみんなの曲を何度も何度も聴いている。無限の時間があるなら、ひとりひとりに会いに行って音楽の話をしながら飲み明かしたいくらいだ。

もう、このイベントは私にしかできないと思う。自分で言うのはカッコ悪いかもしれないけど、本当に、心の底からそう思う。なぜなら、形をなぞることはできたとしても、私と同じ熱量でゼロカラコンピを運営することは誰にもできないからだ。私の人生は、とうにゼロカラコンピに捧げている。このイベントを大きくしてDTMerの文化にすることに、私は20代後半の貴重な時間をすべて使ってきた。誰にも真似できないことをやっている自信があるし、絶対に辞めない気概もある。だからゼロカラコンピは、何年先かはわからないけど、そう遠くない未来、必ずDTMerの文化になると信じている。私は私と、参加してくれるみんなのことを信じている。

 

 

ゼロカラコンピは今回の「ラブソング」でちょうど3周年を迎えた。あなたも、ぜひゼロカラコンピに参加してください。ミュージシャンが楽しく活動できる最高の世界を、一緒に作りませんか?

最後に、これまで一度でもゼロカラコンピに関わってくれたすべての方へ、心からの感謝を申し上げます。

それではみなさま、良いお年を。

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